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「主よ、みもとに」

 ふと空を見ると「ああ、神様っているのかな」と思う現象に出会うことがあります。雲の間から光が、とりわけ放射状に差すその不思議な光景に出会うと、天から何かが降りてくるような気がしてしばし足をとめて見あげることはありませんか。「天使の梯子」といわれる現象です。英語では “Jakob's Ladder” と言います。典拠となるのは旧約聖書・創世記28章10節から20節です。兄エサウをだしぬいて家を継ぐ権利を手に入れたヤコブは故郷を離れて逃亡生活をしています。そのなかベエル・シェバからハランの途上で日が暮れて野宿することになります。石を枕に眠っているヤコブは、「先端が天に達する階段が地に向かって伸びており、しかも、神の御使いたちがそれを上ったり下ったりしてい」る様子を夢に見ます。その夢の中で父アブラハムと同じようにヤコブは主から祝福を受けます。そして「見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこに行っても、わたしはあなたを守り、…決して見捨てない」との言葉をかけられます。おどろいて眠りから覚めたヤコブは、枕にしていた石を記念碑として立て、その場所を「神の家」(ベテル)と名付けます。聖書に多く見られる地名の起源譚の一つなのですが、「神がわたしと共におられ、わたしが歩むこの旅路を守り、食べ物、着る物を与え」てくれるというヤコブの言葉は、ユダヤ=キリスト教信仰にある、わたしたちの人生が神にいつもわたしたちに寄り添い、守ってくれるという信頼感の表明となっています。

 讃美歌「主よ、みもとに」はこのヤコブの物語を下敷きにしています。

 1.主よ、みもとに近づかん。/十字架の道行くとも

  /わが歌こそ、わが歌こそ、/「主(しゅ)よ、みもとに近づかん」。

 2. さすらう間に 日は暮れ/石にまくら するとも、

  /夢にもなお、夢にもなお、/主よ、みもとに近づかん。

 3.天よりとどく かけはし、/ われをまねく みつかい。

  /恵みうけて、恵みうけて、/主よ、みもとに近づかん。

 4.目覚めてのち、ベテルの/石を立てて 捧ぐる/

  /祈りこそは、祈りこそは、/主よ、みもとに近づかん。

この讃美歌はしばしば葬儀の際に歌われますが、思わず目頭が熱くなる複数のエピソードが思いおこされます。映画「タイタニック」(1997年)で、氷山に衝突したタイタニック号が沈みつつあるなか船内にのこされた楽団は「主よ、みもとに」を演奏し続けます。生き残った乗客の証言にもとづく真実の出来事だそうです。また、私ぐらいの年齢だと、いくたの名作アニメを送り出した世界名作劇場から「フランダースの犬」(1975年)を想い出します。吹雪の中を裸足で歩くネロ少年の足は不思議にアントワープの大聖堂にむかっていました、聖堂にはいると絵を覆うカーテンがなぜか開いており、念願であったルーベンスの「キリスト降架」を目にすることができます(ふだんはカーテンに隠されており、銀貨をはらった人だけが見ることができた)。かたわらには愛犬パトラッシュ。「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。何だかとても眠いんだ」とネロは言い終えると、パトラッシュともに冬の冷たい教会の床に眠りこんでしまいます。その二人を天使が天に導いていきます。そのとき流れるがやはり「主よ、みもとに」なのです。

 5.天翔けゆく つばさを/与えらるる その時

 / われら歌わん、われら歌わん、/「主よ、みもとに近づかん」。

書いているうちに、やっぱり涙が出てきました。

(画像は、栃木県大田原市/2020年5月11日に出現した「薄明光線現象」、いわゆる《天使の梯子》、「ウェザーニュース」5月12日付から転載)


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